サンデー毎日 9月28日号掲載より
で、町はおきたか?

サファリだけじゃ実ゾウは見えない 写真=中村琢磨
小玉節郎
こだま・せつろう
1948年生まれ、広告制作会社でコピーライターをしながら、積極的に取材活動も手掛ける。普通の人、でいることを生き方の基本にし、目指すは「平成の頑固じじい。」現在、モスデザイン研究所勤務
 町おこしという。皆で力を発揮して、眠っていた町を元気にする働き。例えば、特産物の開発や販売、あるいは観光客誘致の整備などなど。
 日本各地の取材の旅をしているうちに、町おこしをしたところに行きましたが、ちゃんと町が「おき続けている」ところをあまり見ない。
 もちろん、大成功して経済的に潤い、多くのお客さんが見に来るようになって活気づいたところもないではない。
 しかし、多くは、一瞬目覚めはしても、ちゃんとおきてはいないように見える。
 特産物が、それほどの「特産」ではなく、案外どこにでもあるもので、当初の計画ほど売れないということがよくある。売れないと生産縮小、設備投資分赤字。かかわった人のやる気が失せて消失していく。 パッケージやキャッチフレーズが派手なだけではどうにもならない。
 名水の旅をしたとき、各地でおいしい名水を売ろうとしたのを見た。大量の水がただで湧くから、売れれば大儲けと考える。どこでもそうと思い、名水を汲み上げてパックする工場を造る。さて、売り出してみると、大企業が全国レベルで広告する水にかなわず売れない。撤退し、地元で水を持てあます。
 先に書いた特産物も、漬物や蕎麦あるいは有機栽培の野菜といったもの。そんなものはどこにでもある。観光といっても、全国からいつも人が集まるほどのものはすでに定まっていて、新参の観光地は商売にならない。
 町は簡単におきないものだと思う。静かな町ではいけないのか。そこに住んでいる人々にとって、暮らしやすく穏やかというだけではいけないのだろうか。
 まず、町おこしを思い立った自治体は、失敗した町を視察してしっかり話を聞けばいい。成功例よりまず失敗例をしみじみ見て学べばいい。
 町おこしは、上からではなく、下から。その土地に足をつけて生きる若い人たちが、町をおこし続ける気持ちにならない限り、再び寝てしまう。
 企画を持ってきて、町の年寄りの、目を覚ますだけで帰っていってしまう集団がどこにもいる。それにも注意しなければいけない。
 町おこしに躍起になるけれど、おこして何をするかしっかり考えてからにしないと、二度とおきられなくなる。
イラストレーション=安西水丸